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私権の社会性・権利濫用の禁止

フランス革命は、市民が実力を行使して封建制度を打破し、自らの権利・自由を獲得した歴史でしたよね。こうした背景もあって、その後に制定されたフランス民法典(ナポレオン法典)をはじめとする近代ヨーロッパ民法典は、これまでの封建的拘束から解放された個人の自由・平等と所有権の絶対不可侵(所有権絶対の原則)をきわめて重視しました。そして、所有権をはじめとする財産権は、私的自治の中核となったわけです(私的自治の原則については前回を参照)。

人及び市民の権利宣言(フランス人権宣言)17条
「所有は、神聖かつ不可侵の権利である。」

しかし、19世紀における資本主義の発展のなかで財産権の絶対性に対する疑問・弊害が生じるようになり、制約が必要ではないかと認識されるようになりました。その嚆矢がワイマール憲法でした。現在の日本民法もこうした考え方を踏襲しています。

ワイマール憲法153条
「所有権は義務を伴う。その行使は、同時に公共の福祉に役立つべきである。」

民法1条1項
「私権は、公共の福祉に適合しなければならない。」

「私権」とは、私法上の権利をいいます。「私法」とは、私たちの私的な生活関係を規律する法を指します。民法は、私法の一つですが、私法のなかでも基礎的・基本的なルールを定めていることから「私法の一般法」とも呼ばれています。
「公共の福祉」とは、公共の利益、すなわち、社会の共通利益をいいます。民法1条1項は、公共の利益との関係で個人の権利・自由が制限されることがあることを確認するものです。これを「私権の社会性」とか「私権の公共性」などとも表現します。
このように所有権・財産権の絶対性という原則は、少なからず修正を受けています。

民法1条3項
「権利の濫用は、これを許さない。」

さらに、法律上の権利を有する者であっても、権利を濫用して行使することは許されないことを確認しています。これは一見すると正当な権利の行使のように見られるものの、具体的な状況やその実際の結果も踏まえると、権利の行使として認めることが妥当ではないことです。
権利には義務が伴う、権利を有するからといって自由かつ無制限に行使できるわけではないことを心掛けましょう。

次回は権利濫用が問題となった著名な裁判例を見ます。簡単なご紹介です。
①信玄公旗掛松事件
武田信玄公が軍旗をかけたとされる由緒ある老松(実際は違うらしいですが)が、蒸気機関車の煤煙で枯れちゃった事件です。


宇奈月温泉事件
黒部川上流の黒薙温泉から引湯して温泉を営業をする宇奈月温泉。全国的にも珍しい全長7キロもの引湯管を設置していれば、知らず知らずの間に誰かの土地を勝手に使っちゃってたっなんてこともあるよね。でも、それを知った上で土地を購入して法外すぎる価格で買い取れってあんまりだよね事件です。

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