令和2年10月18日(日)に実施された宅地建物取引士試験を解いて、私なりにではありますが、解説をつけてみました。少しでも参考になれば幸いです。もし間違いなどがありましたらごめんなさい。あくまでも参考程度にお願いしますm(__)m
今回は【問1】~【問5】までです。
【問 1】 Aが購入した甲土地が他の土地に囲まれて公道に通じない土地であった場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。
1. 甲土地が共有物の分割によって公道に通じない土地となっていた場合には、Aは公道に至るために他の分割者の所有地を、償金を支払うことなく通行することができる。
2. Aは公道に至るため甲土地を囲んでいる土地を通行する権利を有するところ、Aが自動車を所有していても、自動車による通行権が認められることはない。
3. Aが、甲土地を囲んでいる土地の一部である乙土地を公道に出るための通路にする目的で賃借した後、甲土地をBに売却した場合には、乙土地の賃借権は甲土地の所有権に従たるものとして甲土地の所有権とともにBに移転する。
4. Cが甲土地を囲む土地の所有権を時効により取得した場合には、AはCが時効取得した土地を公道に至るために通行することができなくなる。
正解 1
1. 〇 民法213条1項。
2. ✖ 隣地通行権(以前は囲繞地通行権と呼ばれていました)が認められる場合、その内容(通行の場所と方法)は、通行権を有する者にとっての必要性と通行地の負担の程度を相関的に判断して決められます(民法211条1項、210条1項)。判例は、自動車による通行を認める必要性、周辺の土地の状況、自動車による通行を前提とする通行権が認められることにより他の土地の所有者が被る不利益等の諸事情を総合考慮して判断するとしています(最判平成18・3・16民集60-3-735)。このことから、Aによる自動車の通行権が認められることもありますので、ないと断言するのは誤りです。
3. ✖ 甲土地の所有権と、乙土地の賃借権との間に、「一方の処分に他方が従う」という主従関係は認められません。従たる権利とは、「主物」に付属せしめられた「権利」をいうのであって、たとえば、借地上の建物(主物)が売買される場合には、土地貸借権(従たる権利)も建物に従い当然に売買されるような場合を指します。したがって、乙土地の賃借権は、甲土地の所有権に従たるものではありませんし、甲土地の所有権に伴って移転するものでもありません。
4. ✖ 隣地通行権は、袋地(他の土地に囲まれて公道に通じない土地)であっても社会における貴重な財である土地であるがゆえにその有効利用を図り、もって社会的利益を確保するために法律が特別に認めた権利です。したがって、第三者が袋地を囲んでいる土地(囲繞地)を時効取得したとしても、隣地通行権が消滅するものではなく、袋地所有者は当該土地を公道に至るために通行することができます。そうでなければ、本当に袋の中の鼠状態になってしまいますし、怖くて誰も袋地なんか買わなくなってしまいます。
【問 2】 令和2年7月1日に下記ケース①及びケース②の保証契約を締結した場合に関する次の1から4までの記述のうち、民法の規定によれば、正しいものはどれか。
(ケース①)個人Aが金融機関Bから事業資金として1,000万円を借り入れ、CがBとの間で当該債務に係る保証契約を締結した場合
(ケース②)個人Aが建物所有者Dと居住目的の建物賃貸借契約を締結し、EがDとの間で当該賃貸借契約に基づくAの一切の債務に係る保証契約を締結した場合
1. ケース①の保証契約は、口頭による合意でも有効であるが、ケース②の保証契約は、書面でしなければ効力を生じない。
2. ケース①の保証契約は、Cが個人でも法人でも極度額を定める必要はないが、ケース②の保証契約は、Eが個人でも法人でも極度額を定めなければ効力を生じない。
3. ケース①及びケース②の保証契約がいずれも連帯保証契約である場合、BがCに債務の履行を請求したときはCは催告の抗弁を主張することができるが、DがEに債務の履行を請求したときはEは催告の抗弁を主張することができない。
4. 保証人が保証契約締結の日前1箇月以内に公正証書で保証債務を履行する意思を表示していない場合、ケース①のCがAの事業に関与しない個人であるときはケース①の保証契約は効力を生じないが、ケース②の保証契約は有効である。
正解 4
1. ✖ 保証契約は、必ず書面によってしなければ効力が生じません(民法446条2項)。
2. ✖ ケース②の保証契約は、賃貸借契約に基づく一切の債務に係る保証契約とありますので、これは「根保証契約」です。根保証とは、継続的な債権関係から生ずる不特定の債権を担保するための保証(たとえば、賃借人の債務の保証とか、身元保証)のことです。根保証契約のうち、保証人が法人でないものを個人根保証といいます(民法465条の2第1項)。個人根保証契約は、極度額を定めなければその効力を生じませんが(民法465条の2第2項)、法人根保証契約の場合には極度額を定めなくても効力は生じます(民法465条の5第1項参照)。
3. ✖ 連帯保証契約においては、催告の抗弁を主張することはできません(民法454条、452条)。
4. 〇 ケース①の保証契約は、事業資金として借り入れた貸金債務に係る保証契約とあるので、「事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約」にあたります(民法465条の6第1項)。したがって、同項より、保証人が個人である場合については、保証意思宣明公正証書により「保証債務を履行する意思」を表示していなければ保証契約は効力を生じません。他方、個人根保証契約については保証意思宣明公正証書による意思表示が要求されていないので、ケース②の保証契約は有効です。
【問 3】 次の1から4までの契約に関する記述のうち、民法の規定及び下記判決文によれば、誤っているものはどれか。なお、これらの契約は令和2年4月1日以降に締結されたものとする。
(判決文)
法律が債務の不履行による契約の解除を認める趣意は、契約の要素をなす債務の履行がないために、該契約をなした目的を達することができない場合を救済するためであり、当事者が契約をなした主たる目的の達成に必須的でない附随的義務の履行を怠ったに過ぎないような場合には、特段の事情の存しない限り、相手方は当該契約を解除することができないものと解するのが相当である。
1. 土地の売買契約において、売主が負担した当該土地の税金相当額を買主が償還する付随的義務が定められ、買主が売買代金を支払っただけで税金相当額を償還しなかった場合、特段の事情がない限り、売主は当該売買契約の解除をすることができない。
2. 債務者が債務を履行しない場合であっても、債務不履行について債務者の責めに帰すべき事由がないときは付随的義務の不履行となり、特段の事情がない限り、債権者は契約の解除をすることができない。
3. 債務不履行に対して債権者が相当の期間を定めて履行を催告してその期間内に履行がなされない場合であっても、催告期間が経過した時における債務不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、債権者は契約の解除をすることができない。
4. 債務者が債務を履行しない場合であって、債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したときは、債権者は、相当の期間を定めてその履行を催告することなく、直ちに契約の解除をすることができる。
正解 2
1. 〇 引用されている判決文(最判昭和36・11・21民集15-10-2507)と同趣旨です。
2. ✖ 判決文にもあるように、付随的義務の不履行とは、当事者が契約をした主たる目的の達成に必須的でない義務の履行を怠ったことをいうのであって、債務不履行について債務者の責めに帰すべき事由がないことをいうものではありません。
3. 〇 民法541条ただし書。
4. 〇 民法542条1項2号。
【問 4】 建物の賃貸借契約が期間満了により終了した場合における次の記述のうち、民法の規定によれば、正しいものはどれか。なお、賃貸借契約は、令和2年7月1日付けで締結され、原状回復義務について特段の合意はないものとする。
1. 賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷がある場合、通常の使用及び収益によって生じた損耗も含めてその損傷を原状に復する義務を負う。
2. 賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷がある場合、賃借人の帰責事由の有無にかかわらず、その損傷を原状に復する義務を負う。
3. 賃借人から敷金の返還請求を受けた賃貸人は、賃貸物の返還を受けるまでは、これを拒むことができる。
4. 賃借人は、未払賃料債務がある場合、賃貸人に対し、敷金をその債務の弁済に充てるよう請求することができる。
正解 3
1. ✖ 賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷がある場合、賃借人はその損傷を原状に復する義務を負います(民法621条本文)。しかし、賃貸借における賃借物の場合は使用貸借の場合(民法599条3項)と異なり、「通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗」(これを「通常損耗」といいます。最判平成17・12・16判時1921-61参照)と「賃借物の経年変化」は原状回復の対象外とされています。したがって、賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷がある場合、通常の使用及び収益によって生じた損耗については原状に復する義務を負いません。
2. ✖ 賃借物の損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃借人は、この損傷を原状に復する義務を負いません(民法621条ただし書)。
3. 〇 敷金は、賃貸借契約存続中に生じた債務のみならず、契約終了後に賃借人が賃貸人に対して負担する一切の債務をも担保するものです(目的物を明け渡すまでに生じた賃料相当額の損害賠償債務も担保しているものなのです)。それゆえに、「賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき」に敷金返還請求権が発生するとされています(民法622条の2第1項1号)。したがって、特約がない場合は、賃貸借契約終了後の目的物返還義務(明渡義務)と敷金返還義務とは同時履行の関係には立たず、明渡義務が先に履行すべき義務となります。
4. ✖ 賃貸人は、賃借人が賃貸借契約に基づいて生じた金銭債務を履行しないとき(たとえば、賃料の支払いを延滞したとき)は、敷金をその債務の弁済に充てることができます。しかし、賃借人は、賃貸人に対し、敷金をその債務の弁済に充てることを請求することはできません(民法622条の2第1項)。
【問 5】 AとBとの間で令和2年7月1日に締結された委任契約において、委任者Aが受任者Bに対して報酬を支払うこととされていた場合に関する次の記述のうち、民法の規定によれば、正しいものはどれか。
1. Aの責めに帰すべき事由によって履行の途中で委任が終了した場合、Bは報酬全額をAに対して請求することができるが、自己の債務を免れたことによって得た利益をAに償還しなければならない。
2. Bは、契約の本旨に従い、自己の財産に対するのと同一の注意をもって委任事務を処理しなければならない。
3. Bの責めに帰すべき事由によって履行の途中で委任が終了した場合、BはAに対して報酬を請求することができない。
4. Bが死亡した場合、Bの相続人は、急迫の事情の有無にかかわらず、受任者の地位を承継して委任事務を処理しなければならない。
正解 1
1. 〇 委任者の責めに帰すべき事由により事務処理が履行不能となった場合は、民法536条2項の法意に照らして、受任者は、委任者に対して、報酬全額の請求をすることができます。
2. ✖ 民法644条。受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって委任事務を処理する義務を負います。
3. ✖ 受任者の責めに帰すべき事由によって履行の途中で委任が終了し委任事務を処理することができなくなった場合であっても、別段の合意がなければ、「既にした履行の割合に応じて」、または委任者が受ける利益の割合に応じて、委任者に対して報酬を請求することができます(民法648条3項、648条の2第2項・634条。これを割合的報酬請求権といいます)。
4. ✖ 委任は、委任者又は受任者の死亡によって終了します(民法653条1号)。委任が終了した場合において、急迫の事情があるときは、受任者、その相続人または法定代理人は、委任者、その相続人または法定代理人が委任事務を処理できるようになるまで必要な処分をしなければなりません(民法654条)。