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【自作童話】アマビエ伝説

 すこしむかしのことである。

 肥後の国(現在の熊本県)にひとりの役人がおった。
 彼は、非常にまじめな男で、自分が担当する村に何度も、赴いて、異常がないかを確認しておった。

 村の人たちからも非常に信頼されていて、なにかあったら彼にすぐに報告していた。

 ある日のことである。
 役人は、いつもの村に確認に出向いた。

「お役人様、実は不思議なことがあるのです。夜ごとに海にぴかぴかしたものがあるのです。村の者はみんな怖がって、近寄れないんですが、非常に不気味なのです。どうにかなりませんか」
「あい、わかった。ならば、私が夜に海に出向き、光の正体をあばいてやろう」

 おとこは非常に責任感があったのだ。
 夜まで村で待機し、光が発生する海に向かった。

「やや、なんだあの光は…… 何度も点滅しているぞ」
「やっときたか、律義者よ」
 光は突然、役人に話しかけてきた。

「何者じゃ」
「ははは、怖がるな。儂は、"アマビエ"というものじゃ」
 光がそう言うと、海から一匹の妖怪があらわれた。

 鳥のようなくちばしをもって、長い髪をもつ異形の者。あきらかに人間ではない存在がそこにおった。

「儂はお主を待って居った。お主は、まれにみる律義者で、村人からも信頼されている。お主のような徳の高いものははじめてじゃ。だが、お主は生まれの身分が低く、なかなか出世ができない。それがかわいそうでな、少しばかり手助けをしてやろうと思ったのじゃ」
「あなたは、いったい誰なのですか。仏様でしょうか?」
「そんなたいしたものではない。海に住む者じゃ。ちょっとばかり、お主らより文明が発展していて、ちょっとばかり形が違う存在じゃ」
「ちょっと……?」
「そう固くならんでいい。実はな、私の発明した未来予測機が大変な予測結果を導いたのじゃ」
「予測機?」
「ああ、そうかわからんか。まあいい。これは予言じゃ。今より6年間、この国と周辺国では豊作が続く。しかし、それとは別におそろしい疫病も流行してしまうのじゃ。お主に渡すこの魔法の箱には、儂の似顔絵が入っている。これに疫病のもとになるウィルスを倒すワクチン、いやこれではわからんな。薬を染みこませておいた。絵から自動的に空気に放出される薬なので、人々を助けるためにこの絵を人々に見せてやれ。絵は自動的に作られて、6年後に消えてしまうからなるべく多くの人にばらまくのじゃ」
「ありがとうございます、アマビエ様」
「様はいらん、様は」
 そう言って、アマビエは消えていった。男はあわてて、上司に相談し、国中にアマビエ様の絵を配った。
 不思議なことにすでに病気が流行っていた場所でも、その絵のおかげで流行はぴたりと止んでしまった。
 こうして、男の活躍で流行り病は未然に防ぐことができたのだった。男は異例の出世し、代官になったとさ。

 ※

 そして、現代。

「なんだ、あの海の光は……」
 一人の男が散歩中に、海で光る希望を見つけた……

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プロフィール

関東圏の国立大学を卒業し、働く社畜。よく上司とけんかする問題児だが、仕事は割とうまくこなしていると言われている。社畜の癖に根っからの自由人で、オタク。趣味で同人小説や同人ゲームを作っている。将棋も趣味でアマチュア三段。将棋ラブコメ小説が投稿サイトで累計50万PVを達成したり、将棋研究ブログがその筋の人にはわりと有名だったりする。大学時代は歴史研究に没頭したせいで満洲語やトルコ語がある程度わかる変な特技を持つ。かなりの凝り性。趣味は将棋と読書とゲーム。

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